新ジャンルハードウェアが売り切れがちな理由をわかりやすく解説

※この記事は2020年2月7日に東京大学VRサークル「UT-virtual」で行った講演の一部抜粋です。

「新ジャンル」と聞くとビール…という印象があるかもしれませんが、常に新ジャンルの新製品が発売されるのが、ガジェットやPCパーツ界隈。ただ、「ちょっとお高いので後で買おう」と思っていた製品が売り切れになってしまうこともよくあります。

本稿では筆者が過去に国内販売網の整備を行っていたVR関連製品を例にとり、「なぜ新ジャンルのハードウェアは売り切れになりがちなのか」を解説します。


通常、製品を購入するエンドユーザーは製品を製造・販売しているメーカーと、それを購入する場所である小売店の存在は認識していますが、メーカーと小売店の間で何が起こっているかを意識する機会はあまりありません。「メーカーから小売店に製品が直送されている」という想像をしている人もいるかもしれません。


実際は新ジャンルのハードウェアは深セン(中国)や台湾などの海外で製造されているケースがほとんどで、その場合、海外で組み立てられた完成品は税関を経由して日本国内に輸入され、いくつかの倉庫を経由してネットショップの倉庫やリアル店舗へ送られることになります。


国内に販売網を整備している大手メーカーであれば工場から小売店までの流通網を自社で整備している場合もありますが、新ジャンルハードウェアの多くは国内に倉庫などの流通網を持たない海外の中小メーカーで製造されるため、「販売代理店(商社)」と呼ばれる企業が国内への輸入から小売店への配送までのプロセスを担当することになります。


また、忘れてはならないのは、ハードウェアは色々なパーツを組み立てて製造されているという点です。それぞれのパーツを生産するパーツメーカーは常に潤沢な在庫を持っている訳ではないので、完成品を製造するメーカーからどのくらいの量のパーツを購入する予定かを予めヒアリングし、その内容に基づいてパーツの材料を調達し、生産を行います。


ここで少し話は逸れますが、海外と日本で最終小売価格の価格差がある事に普段から疑問を持っていらっしゃる方向けに、おま値の理由を解説します(※おま値とは海外より割高な値段で国内で売られるゲームに対するスラングです)。ハードウェアの場合、主に以下の4点が海外と比べて最終価格が高くなる原因となります。
①為替リスク
②関税(政府が国内製品保護のために海外製品に高い関税をかけている場合)
③国内の倉庫代や配送費(地価や人件費が比較先の国より高いと割高になる)
④小売店の会員向けポイント(日本独自の仕組みのため、最終価格に上乗せされているケースも)


話を「なぜ売り切れがちなのか」という点に戻します。そもそも新ジャンルのハードウェアは比較対象となる前モデルの販売数や競合製品の販売数などのデータが存在しないため、販売台数の予測が非常に困難です。消費者の動向を把握している小売店にヒアリングを行っても、保守的な数字しか返ってきません。そのため、初回生産台数はおっかなびっくり設定され、その数字を元にパーツメーカーに発注が行われます。また、川上にいくにつれて部品調達の観点から販売予測のサイクルが長くなる(月間→年間)のも特徴です。


製品発売後、幸運にも想定以上の需要が市場に存在した場合はどうなるでしょうか。店頭から在庫は蒸発し、小売店は代理店に急いで追加発注を行いますが、初回はギリギリの数量しか輸入していない代理店の国内倉庫にも既に在庫はありません。代理店はメーカーに追加の発注を行いますが、そもそもメーカーにも完成品を組み立てるパーツがないため、追加の発注をパーツメーカーに行います。パーツメーカーは当初の年間生産計画を見直して材料の追加発注を行い、生産ラインを確保するところから調整を行うため、小売店に追加発注分の在庫が並ぶのには数ヶ月単位で時間がかかることになります。これが「新ジャンルのハードウェアが売り切れがちな理由」です。


今日の結論:気になるハードウェアは今すぐに買いましょう。売り切れてから後悔しても、後の祭りです。

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※この記事は2020年2月7日に東京大学VRサークル「UT-virtual」で行った講演の一部抜粋です。

「新ジャンル」と聞くとビール…という印象があるかもしれませんが、常に新ジャンルの新製品が発売されるのが、ガジェットやPCパーツ界隈。ただ、「ちょっとお高いので後で買おう」と思っていた製品が売り切れになってしまうこともよくあります。

本稿では筆者が過去に国内販売網の整備を行っていたVR関連製品を例にとり、「なぜ新ジャンルのハードウェアは売り切れになりがちなのか」を解説します。


通常、製品を購入するエンドユーザーは製品を製造・販売しているメーカーと、それを購入する場所である小売店の存在は認識していますが、メーカーと小売店の間で何が起こっているかを意識する機会はあまりありません。「メーカーから小売店に製品が直送されている」という想像をしている人もいるかもしれません。


実際は新ジャンルのハードウェアは深セン(中国)や台湾などの海外で製造されているケースがほとんどで、その場合、海外で組み立てられた完成品は税関を経由して日本国内に輸入され、いくつかの倉庫を経由してネットショップの倉庫やリアル店舗へ送られることになります。


国内に販売網を整備している大手メーカーであれば工場から小売店までの流通網を自社で整備している場合もありますが、新ジャンルハードウェアの多くは国内に倉庫などの流通網を持たない海外の中小メーカーで製造されるため、「販売代理店(商社)」と呼ばれる企業が国内への輸入から小売店への配送までのプロセスを担当することになります。


また、忘れてはならないのは、ハードウェアは色々なパーツを組み立てて製造されているという点です。それぞれのパーツを生産するパーツメーカーは常に潤沢な在庫を持っている訳ではないので、完成品を製造するメーカーからどのくらいの量のパーツを購入する予定かを予めヒアリングし、その内容に基づいてパーツの材料を調達し、生産を行います。


ここで少し話は逸れますが、海外と日本で最終小売価格の価格差がある事に普段から疑問を持っていらっしゃる方向けに、おま値の理由を解説します(※おま値とは海外より割高な値段で国内で売られるゲームに対するスラングです)。ハードウェアの場合、主に以下の4点が海外と比べて最終価格が高くなる原因となります。
①為替リスク
②関税(政府が国内製品保護のために海外製品に高い関税をかけている場合)
③国内の倉庫代や配送費(地価や人件費が比較先の国より高いと割高になる)
④小売店の会員向けポイント(日本独自の仕組みのため、最終価格に上乗せされているケースも)


話を「なぜ売り切れがちなのか」という点に戻します。そもそも新ジャンルのハードウェアは比較対象となる前モデルの販売数や競合製品の販売数などのデータが存在しないため、販売台数の予測が非常に困難です。消費者の動向を把握している小売店にヒアリングを行っても、保守的な数字しか返ってきません。そのため、初回生産台数はおっかなびっくり設定され、その数字を元にパーツメーカーに発注が行われます。また、川上にいくにつれて部品調達の観点から販売予測のサイクルが長くなる(月間→年間)のも特徴です。


製品発売後、幸運にも想定以上の需要が市場に存在した場合はどうなるでしょうか。店頭から在庫は蒸発し、小売店は代理店に急いで追加発注を行いますが、初回はギリギリの数量しか輸入していない代理店の国内倉庫にも既に在庫はありません。代理店はメーカーに追加の発注を行いますが、そもそもメーカーにも完成品を組み立てるパーツがないため、追加の発注をパーツメーカーに行います。パーツメーカーは当初の年間生産計画を見直して材料の追加発注を行い、生産ラインを確保するところから調整を行うため、小売店に追加発注分の在庫が並ぶのには数ヶ月単位で時間がかかることになります。これが「新ジャンルのハードウェアが売り切れがちな理由」です。


今日の結論:気になるハードウェアは今すぐに買いましょう。売り切れてから後悔しても、後の祭りです。

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